虚言ネットワーク

※このブログはフィクションです

駆け抜けて日常 #8

久々にギャラリーに足を運んでみた。

ある世界の新人、その世界のこれからを担うかもしれない人々の作品を鑑賞すると、軽い動悸のような…それが何を意味するかは判らないが…そんな症状を覚えることがあった。

「気持ちを強く持って…!」そんな声がする。

こんなご時世、一つの作品に魅了されて群がることすら拒絶される訳で、整理番号をスタッフが配布し、順番で鑑賞するというスタイルらしい。

「八番の札をお持ちの方はいらっしゃいますか?」

ガラス越しに見える作品に早くも動悸のような症状を訴える身体。ロビーが病院の待合室に思えてならなかった。

自分の順番が来て、作品を眺める。同じタイミングで入った人がスルスルと進んでいく中、ゆっくりと鑑賞してしまう私はのろまである。昔から片付けや準備が終わるのも最後であったし、自分がのろまであることに気付いて早めに動き出すことを覚えたとしても、自分のペースそのものを上げることは不可能であった。

そんなことを考えていると、作品とピントが全く合っていないこと、同じタイミングで入った人が作品を鑑賞し終えていたこと、そんなことにハッとさせられた。多分、私はこれからもそうであろう。

奥のブースで、一口ばかりの寄付を催促された。今は展示会を開催するのも一苦労らしい。まあ、どこに渡るかも判らないコンビニのレジの横にある募金箱なんか(ちゃんとどこに渡るか調べる気もない自分は棚に上げて)よりは明瞭で、気持ちが良い。「お気持ち」を渡すと、署名を求められた。署名をしてから気付いたことであるのだが、私の氏名を書く欄の一つ上の欄、そこに書いてある氏名が一文字も読み取れないくらいの達筆(達者が故か、筆が滑るが故か…)であった。丁寧に紙の上で名乗った自分が少し恥ずかしい。私が深々と一礼している間に隣の彼はもうそこにはいない。そんな気分だった。

私はやはり、のろまらしい。