虚言ネットワーク

※このブログはフィクションです

駆け抜けて日常 #6

「履き慣れていなくて、靴擦れしちゃう靴ならば、捨ててしまいましょう。履き慣れていないのは、あなたがちゃんと履いてあげていないからでしょう?と思ったでしょう。でも、何で履き慣れていないのか。それはその靴に愛着がないからなのです。私もあります。運命だと思っていたら、次の日になると何かが思い出せないくらいの感じでその場にいるんですよ。何の話かって?靴の話ですよ。そんなに捨てきれないのならば、まずは一足手放すんですよ。捨てろとは言いません。下駄箱の中で別の段に押し込めてやるんです。そうすると、彼等が寂しそうな顔をしてコッチを見てくるんです。でも、そんな彼等のことすら思い出さなくなるような日がすぐに来ます。意図的に忘れようと思っても忘れないものは好きでしょうから、手放さないように尽力するでしょうし、するべきです。靴の話ですよ。だから、そんな靴はもう要らないと思うんです。靴はひとりでに歩いていくことはないんです、歩くための靴なのに。」

そのように説く彼の顔をはっきりとは覚えていないが、靴の踵を踏み潰していた。それだけは覚えている。