虚言ネットワーク

※このブログはフィクションです

駆け抜けて日常 #4

たまに、ドライブをしたくなる。

車を持たずとも生きていける都会は何だかんだで便利である。その都会で生きる私は、移動手段として生まれた車に乗る為にわざわざ家から移動し、目的もなく走る訳だから、どうしようもない。それに拍車を掛けるのはこのご時世。あんまり遠出をしてもアレなので、都内を駆け巡りながらも、ほとんどの時間を狭い車内で過ごした。

「最近、家で過ごす時間が増えたから、レコードプレイヤーを買ったわ。」

「そういえば、あそこの喫茶店、潰れてたな。」

「この間、彼女と喧嘩した。」

 

運転の片手間…ハンドルを両手でしっかり握る私…ということで色々なハードルが下がっているのを言いことに、取り留めのない話を沢山された。多分、彼にとって久しぶりの会話だったのではないだろうか。彼はおそらく、微笑んでいた。

方や運転手の私…人の目を見て会話する…義務教育で教えることすら違和感のあるコミュニケーションが苦手であるらしい。両者の利害が…真っ白なマーチの中で…図らずとも一致し、とても心地良い時間であった。

色々と思い返して気持ち悪い瞬間を挙げるとするならば…昼食はモスバーガーを車内で、ということくらいか。

「オニポテ頂戴よ。」

「運転しながらポテト食べたら、ハンドルがギトギトになるぞ。」

「じゃあ、食わせてくれよ。」

「やだよ!何でオマエにあ〜んをしなきゃいけないんだよ。」

 

車窓から見上げるビル群では、オトナたちが働き詰めているらしい。私たちはほどほどに、大人しくしているべきかもしれない…オニオンリングを頬張りながら、そんなことを考える頭を放棄した平日の昼下がり。

車を預けた帰りに公園でビールを飲んだ。久しぶりに誰かと缶をぶつけ合った気がする。

「お疲れ様でした!」

借りた車で往来して、お疲れ様です…?向こうを見てみろよ。スーツを着たオトナが疲れた顔して歩いていくよ。よっぽどお疲れ様じゃないか。向こうを見てみろよ。子供達がマスク付けながら苦しそうに走り回っているよ。よっぽどお疲れ様じゃないか、という言葉をビールで流し込んだ。

 

私達は、何かしらで労い合いたかったのかもしれない。